普通
何者にもなれない
いかにも凡人が抱きそうな悩みだ。
もれなく私もそんな悩みを抱える人間の1人となっている。何者にもなれない。ナンバーワンにならなくてもいいと言ったって、オンリーワンにもなれない。没個性、歯車、普通、何者でもない自分という人間が、ただそこに存在するだけ。
誰かの眼差しの中で生きていきたいと思う。誰かの特別な存在として生きていきたいと思う。
誰かにとって大切な友人であったり恋人であったり。でも、それさえできない。それこそできない。
誰かにとっての親友になれそうもない、誰かが大切に思う恋人にもなれない。
それでもなお、自分は世界に自分しかいない。
何者にもなれなくたって、この世に存在するたった1人の自分を肯定すべきなのかもしれない。世界に一つだけの花の歌詞にも、"もともと特別なOnly one"とあるように、自分が何になろうとも(何にもなれなくても)、もとから特別なものとして、それを受け入れてあげなきゃいけない。
そうは言っても、何者にもなれない苦しみはこれからも多分続いていく。もしかしたら死ぬまで続いていく。苦しみを骨の髄まで染み込ませて、生きていく。
何もない人生が確かにそこにあったことを証明する。
何も、ない。が、本当に何もなければ何もないも残らない。確かにそこに無いがあったことを
unkoⅡ
■半分
5月ももう終わりが近づいてきている。2020年としてみてもおおよそ半分ぐらいのところまで来たわけです。
月並みな言葉だが、時間の流れははやい。あっという間だ。
2020年が始まったとき、まさか世界がこのようになっているとは夢にも思わなかった。
これも月並みな言葉だが、まじで予想だにしなかった状況というか。
こういう言い方をしていいのかはわからないが、ウィルスってすげえななんて思ったりして
去年の12月?11月?ごろに中国の武漢で謎の肺炎が広がってるなんて話を聞いたときから半年も経たずに国境を越え海を越え世界中に広まってしまった。
ちょっと不思議な気分さえする。
まあそんなこんなで世界に甚大な被害、影響をもたらしているわけですが、私が好きな娯楽もその例外ではなく影響を受けている。
行こうとしていたライブは軒並み中止あるいは延期になり、映画の公開も延期されている。ゲームもだ。(ラストオブアス2...)
これからは音源の発売、リリースにも影響が出てくるでしょう。レコーディングもままならないでしょうし、流通の事情もあるでしょう
それでも2020年は今の時点で既にめちゃくちゃ良作、佳作、傑作といってもよい作品が数多くリリースされている。
1年が終わってからまとめてもよいのだけれど、すでに作品が溢れすぎているので、
上半期のまとめ、雑感的なものをここに書いておきたい。
今年は作品の質云々の前に、まず名前を聞いただけで無条件に期待してしまうようなミュージシャンの作品が多くリリースされたように思う。
King KruleにThundercat、Moses Sumneyとか、リリース前から期待しちゃうようなメンツだ。
つーわけで早速よかったアルバムを列挙していきます。順不同です
New Me, Same Us / Little Dragon
プロの中のプロ、ミュージシャンが尊敬するミュージシャン、Little Dragon
昨年発売されたFlying Lotusのアルバムでもフィーチャーされてたけど、この人たちは本当に各方面から引っ張りだこ。キャッチ―なエレクトロニカに唯一無二のYukimi Naganoの声。何度も繰り返し聴いていられる。
It Is What It Is / Thundercat
傑作Drunkのリリースから3年も経っていたのか。まずそこに驚き。ついこの間みたいに思う。
Thundercatといえば6弦ベースから生み出される超絶テクと美しいファルセットというイメージなんだけれども、今まではちょっと過剰な部分も少なからずあったと思うんですよね(それも含めてよかったといえばそうなんだけれど)。
でも今作はより内省的な内容で、音そのものもいろんなものをそぎ落としたようなよりシンプルな形でめちゃくちゃ良かった。引き算の美学というか、シンプルだからこそ彼が持っている技術であったり個性がさらに引き立つというか。
内省的なのはMac Millerの死の影響も大きいんだろうな。
とにかく名盤といってもよいのではないかと思う。
ブラクラ / 挫・人間
えー、挫・人間です。ブラウザクラッシャー。ソモサン・セッパ。どこまでもイかれてるけど、どこまでも誠実だと思う。
もうMVからして本当にやばかったんだけど、不思議と最後にはジンとくる何かがあるんだなこれが。
卑屈さを残しながらもどんどん開かれていく挫・人間。変わっていくものと変わらないものがあって、良い塩梅で進んできている。
ベースのアベマコトさんが脱退するということでめちゃくちゃ寂しいというか哀しいんだけれども、これからも挫・人間は挫・人間らしく活動を続けてほしいな
What Kinda Music / Tom Misch & Yussef Dayes
これもまた凄まじかった。Tom Mischって洗練されててオシャレでそして確かな技術と才能を持ってるという天才ミュージシャンなわけですが、今作はジャズドラマーYussef Dayesとの共作で今までよりもダークな仕上がりで個人的にめちゃくちゃ良かった。
ちょっと暗くて派手さはないはずなのに、一聴しただけでガツンとくる。それでいて深みが凄い。
græ / Moses Sumney
彼の曲を聴いているとなにか神聖なものに触れているような気分になる。タイトルはgræ。読み方はグレー。白と黒、そのどちらでもない中間であいまいで不明瞭な色。æはeにもaにもなる。世の中の物事は決して白黒分けられるわけではなく、より複雑なグラデーションでできている。
それにしてもMoses Sumneyの曲は本当に強度が高いというか、骨格がしっかりしてるというか。高いソングライティングがあるうえでそこに肉付けがあるから、ブレがない。
これから先も素晴らしい音楽をどんどん生み出してくれそうな期待感がある。
Heaven To A Tortured Mind / Yves Tumor
かっこいい。Yves Tumorって結構実験的な音楽を作ってきた人だというイメージなんだけど、今作は結構”ロック”って感じのギターが鳴っててそれがとんでもなくかっこいい。
そういえば最近めっきりロック然とした音楽を聴かなくなったけど、やっぱりロックってかっこいいよねっていう再認識。でも当然Yves Tumorなので超独特で彼にしか作れない異彩を放つ音楽。天才
Miss Anthropocene / Grimes
イーロンマスクの恋人。最近生まれた第一子に「X Æ A-12」という名前を付けたらしい。狂ってんのかよ。
(その後、この名前が州の法律に抵触している疑惑が出たため「X Æ A-Xii」にしたらしいです。狂ってんry)
あのテスラのイーロンマスクとグライムスが付き合ってるというだけでなんか面白いんですが、音楽性も期待を裏切らない。妖精みたいな見た目と歌声で音はインダストリアルでダーク。めっちゃ好み。無機質で重い音の上に綺麗な声がのるのはやっぱずるいわ。
Man Alive! / King Krule
いやーついにきちゃったね。King Kruleの新作。Thundercatもそうだったけどこちらも前作のリリースから3年が経っていたのか。世界中が期待していたんではないでしょうか。
前作のThe Oozはサウスロンドの荒涼とした情景、悲痛さや苦悩、怒りなどに溢れた大傑作だったわけですが、今作はより怒りの割合が多くなった気がする。がなりたてながら歌う様がよりロックミュージシャンっぽい。
音楽的な素養とかポストパンクやジャズ、ヒップホップ的な要素、すべてを高い次元で自分の音楽に帰結させながら、最後に”かっこいい”という単純な真理にいきつく。
King Kruleについて語るならいくらでも切り口は存在すると思うんだけど、結局ただただかっこいいんだよね。
まだ25歳、これからもまだまだ彼の新しい音楽が聴けると思うと嬉しくなる。日本に来ねえかな。
と、いうわけでとりあえず今年リリースされた作品で特によかった8作品を挙げてみました。他にもなんかあったような気がするな
これからもYellow DaysとかPhoebe Bridgers(来日公演がなくなっちゃった...)、Bibio、Kelly Lee Owensの新譜が控えてるのでまだまだやばい。
2020年、凄まじい。
うんこ
えー、最近は寝ても覚めても新型コロナウィルス(COVID19)の話題ばかり。
まあ、事態が事態なのでしょうがないわけですが、それにしてもデマ、バカ、悪意等々の人間の嫌な部分まで見え隠れして、穏やかでいられない。
感染症の専門家でもない暇な"先生"が毎日テレビに出てきて無責任な発言をしまくる。コメンテーターがまたそれを焚きつける。それを見たバカが騙される。有事の際に対応している人々、組織を批判して足を引っ張る。
とにかくギスギスしている。社会の歪みが顕在化してきたみたいだ。
今回の事態で感じるのは、曲解や揚げ足取り、勘違い、思い込みによって他人を偉く下品に罵る人の多さだ。
少し前に #若者のせい という言葉がトレンドになっていた。話題になっているツイートはどれも"若者のせいにするな!バカな老害が菌を撒き散らしてるんだろうが!!"とか"政府の対応が悪いからだろ"とかそんなものばかり。
けれども実際に、ことの発端となった専門家会議の内容を見てもどこにも"若者のせい"などという言葉は登場しなかった。
若者の場合は感染しても症状が軽かったり、全く出ないことが多いが、自覚症状がないままウィルスの媒介者となり感染を拡大させる可能性があるから注意しようというだけの話だった。
話の中身は至極当然ともいえるものだ。
それなのに何故かこれが若者のせいと捉えられ、それに対してキレる若者が多数発生するという地獄。
本当に毎日うんざりする。ちょっとは落ち着けよ。
WHOがマスクに予防の効果はあまりないから過度の使用は控えて本当に必要なところに行き渡るようにしようというようなことを言ったら、今度はそれに対してキレる人々。
"陥れようとしてる!"とか"嘘を言うな"とかそんなのばっかり。
我々が普段使用しているようなマスクはウィルスを防ぐには目が荒すぎるという話がある。もちろんマスクの効果は物理的なウィルスのブロックだけが観点ではなく、口内や喉の湿度を保つなどの効果もあるため全く予防の効果がないというわけではないだろう。
だが、予防のためだけに使う人々のもとに過剰に供給されるよりは、すでに感染が確認されてる人や症状に疑いがある人に供給された方が社会全体にとって良いことだというのは明白である。
WHOが信用に足る組織なのかは別にしても、この内容そのものは全くおかしなものじゃないわけである。
気に入らない人や組織に対して過剰に下品で汚く罵る人が最近増えたなと思う。
こういう傾向って"老害"という言葉が使われるようになってから、より顕著になったように感じる。相手が悪いのだから汚く罵っても自分は許されると勘違いした人間が量産されたんじゃないかと。一つの言葉に相手を押し込めて問答無用で殴り続ける暴力性。
相手が悪い、或いは自分は被害者。そんな意識を免罪符として暴力性は肥大していく。
何もかもが断絶していく。ウィルスも怖いが、とにかく人間の醜さばかりが目につく。息苦しさと体の重さを感じて生きている。
痛みと優しさ CLOW
今日、CLOWというシンガーソングライターのライブに行ってきた。ワンマンライブ、しんしん。
CLOWの歌を初めて聴いたのは去年の今頃だ。どうやって出逢ったのか、正直よく覚えていない。ネットの海の中から偶然目にしたのだろうか。
たしか、一番最初に聴いたのは"みんな同じ恋の歌ばっか つまんない"だったような気がする。曲名を見て真っ先に、この人は世間(社会あるいは世界)を疎ましく思う偏屈な人間なのだろう、と思った。私は昔から社会にうまく馴染めず(というより馴染むことに多大な労力がいる)、いつも息苦しさを感じていたから、こういう世間にカウンターパンチを食らわすような曲名にとても惹かれて曲を聴いてみようと思ったのだろう。
ただし、それと同時に不安も覚えた。こういうカウンターパンチには大抵、肥大化した自意識が付随する。期待と不安、そんな半々の思いを抱きながら曲を再生したのだった気がする。
しかし、曲を聴いてみたら最初に抱いていた不安は消し飛んだ。この曲は社会全体の没個性を批判することが本質の歌ではなかった。他人に向いていた矛先は、最終的に何もない自分に向いていく。そして、何もない、そんなものが集まってできたこの"何かある世界"を肯定する歌だった。
衝撃を受けた。こういう生きづらさのようなものの原因を外の世界だけに求めるのではなく、自分と向き合い傷口を直視するような歌をずっと聴きたかった。一気にCLOWという歌うたいの虜になったのだった。
前置きが長くなってしまった。上記はCLOWというシンガーソングライターの曲を初めて聴いた時の感想だ。
ライブの感想はこれからです。
そんなこんなで彼女の歌に衝撃を受けてから、ずっとライブに行って、生の歌声を聴いてみたいと思っていた。
どうせならワンマンライブ、尺が長くてその人の世界を一番味わえるやつって事で、仕事を休んで風知空知に来たわけである。
先に感想から言わせてもらえば、"素晴らしい歌をありがとうございます。来てよかったです。これからも歌い続けてください。"の一言(一言?)に尽きる。
音源でも感じる彼女の素晴らしさがライブでは尚一層強く、広がりを持って私の耳に届く。
鋭利な言葉、優しい歌声、痛みを伴う叫び、囁くようなギター、激しく揺れる弦、そしてどこまでも響く静寂、その全てがCLOWを形作る。
音楽に救われたとか、そんな大層なことはあまり言いたくない。インドに行って人生観変わったみたい戯言と同じでそんな訳ないじゃんと今まで思っていた。けれども彼女の歌を聴いた時、この人の歌に救われたと、本気でそう感じた。そしてこれからも、なんども救われるかもしれない。死を思いとどまらせるのには十分な力を持っている。彼女の曲を聴くことで、なんとか生きていこうと思える。
私は今もひとり、広い海を漂っている。自分の存在も、世界の意味も、分からないまま生きている。苦しいことではある、けれどもその苦しみを持って、これからも進み続けねばいけないと思っている。"さいごの航海"という曲がそんな私の背中を押してくれる。
今回のライブではなんとか涙をこぼすことなく、最後まで見届けることができた。
何度も溢れそうになるのを堪えた。
痛みも伴うが、最後には光が差す。これからもずっと聴いていくのでしょう。それくらい大切で普遍的な音楽だと思います。
できる限り長く、これからも歌い続けて欲しい。
また来年の2月、ライブに行きます。
p.s.
アンコールで歌っていた"チャリをこぐ"という歌も良かった。私は最近ファンになったので、この曲の存在を知らなかったが(以前CDで出ていたみたいだけどもう手に入らず)、また音源で聴けるようにCDかサブスクで出してもらえないかなぁ。
年間ベストアルバム TOP27【2018】
皆さんいかがお過ごしでしょうか。ぐっと気温も下がり、真冬の様相を呈しています。
寒くて朝起きられませんね。学校行きたくありませんね。仕事行きたくありませんね。ずっと布団の中に潜っていたいよ。
はい、そんな時は自分なりの年間ベストアルバムを選びましょう!(唐突)
今年も大体のアルバムが出揃ったので、年間のベストアルバムを決めても良い頃でしょう。
ということで、今現在リリースされている作品の中から25枚(最初は25枚で選んだものの後から良いアルバムが出てきたため最終的に27枚)のアルバムを選出しました。
今年は飛び抜けて良いアルバムが生まれたというよりは、佳作、良作が多く生まれたという印象です。
多くの作品が横並びになっているので、27枚選ぶのも苦労しましたが早速紹介していきましょう。
27. Brainfeeder X / Various Artists
Brainfeeder設立10周年を記念したコンピアルバム。他のレーベルでは出せない個性的な面々のサウンドが1つのアルバムになった全36曲のボリューム感たっぷりの一作。
彼らのベクトルの違う個性的な音をよく1つのアルバムに違和感なく収めたな、と思う一方で少し収まりが良すぎる気も
ディスクは2枚組となっており、ディスク2の方が未発表の音源などが入っていて遊びがある。
Brainfeederのレベルの高さがうかがえる一作。
26. CHVRCHES / Love is Dead
まず間違いない。グラスゴーが生んだ3人組エレクトロポップユニットCHVRCHES
前2作よりもさらにポップになった印象。
それでも決して音が軽くなることもなく、今までのCHVRCHESの良さを残したまま、さらに受け皿が広くなったという感じ。
ファーストトラックのGraffitiとトラック6のNever Say Dieが特に好きです
25. Starchild & The New Romantic / Language
現代のPriceとも呼ばれるマルチプレイヤー。Blood Orangeと仕事をしたりSolangeのライブでサポートをやったりとプロからも認められる確かな才能。
古臭い未来感が個人的にとても好み。ファンクやジャズ、ソウルなどの多様なジャンルの音楽をしっかりと自分のものにしたデビューアルバム。
24. BRIAN SHINSEKAI / Entree
日本にあまりいないタイプ。トラックメーカーとして非常に優秀。
アルバム通してトラックはオシャレ。
でもオシャレなトラックだけではなく歌モノとしても非常にレベルが高い。クールさと情熱が内包された一作。
23. Brandon Coleman / Resistance
LAの音楽のみならず世界の音楽を引っ張るレーベルBrainfeederからBrandon Colemanの一作。鍵盤奏者としてあちこちに引っ張りだこの彼だが、ファンクなサウンドがとても気持ち良い。
流石はBrainfeeder所属のミュージシャンといったところで、単なるジャズのサウンドで終わらない引き出しの多さやジャンルの垣根を超えた音楽を生み出してくる。最高。
22. Tempalay / なんて素晴らしき世界
あぁ~!Tempalayの音ォ〜!!
完全にTempalayにしか出せない音ですよね。良質な音楽というのは正直なところ世の中に溢れている。だからこそその中で何にも似ていない、唯一無二であるというのは大きな強みだと思う。
世界に通用するんじゃないすかね。そんな可能性を感じさせる一作。
21. Blood Orange / Negro Swan
天才プロデューサーDav Hynesのソロプロジェクト。人種や性的なマイノリティ、それに付随する悲痛な記憶や経験、それでも失われることがない希望。
少し大人しめのアルバムだけれど質は最高級。
20. 羊文学 / 若者たちへ
シューゲイザーっぽいけどそこまで濃くないのでかなり聴きやすい。絶妙なバランス。
若者が送る若者たちへのメッセージ。今しか感じられない焦燥感や不安、眩しさが詰まったアルバム。
19. Jamie Isaac / (04:30) Idler
サウスロンドンのミュージシャンはみんな良いですね。King Kruleの同級生で親友のJamie Isaac
King Kruleほどの悲痛さ、苦しさは感じさせないものの南ロンドン特有の憂いと荒涼さはしっかりと詰まったチルアウトなアルバム。
若いけど音楽的素養の高さが見られる。
18. Georgia Anne Muldrow / Overload
こちらもBrainfeederから。
トラックメーカーでありシンガーのGeorgia Anne Maldowの3年ぶりのフルアルバム。形容しがたいビートとソウルフルな歌声が織りなすヤバい作品群。
Flying Lotusと一緒に仕事をすることになったのは必然だなと感じる。全ての枠組みを超えていく。
17. 中村佳穂 / AINOU
素晴らしいシンガーソングライター。日本の女性シンガーソングライターというとギターかピアノ弾き語りというイメージが多いですが、中村佳穂は全く別。
打ち込みを多用したビートミュージック的なトラックに伸びやかな声。
これからにも期待できる若い才能。
16. 挾間美帆 / ダンサー・イン・ノーホエア
ジャズとか普段あまり聴かないという人にこそ勧めたい。とにかくカッコ良い。清涼感と広がり。そして憂い。
15. Ryohu / Ten Twenty
アルバム、という形式ではなくあくまでもミックステープという位置付けの今作。
コンセプチュアルではない分、Ryohuらしい多様な音楽が詰まっていて最高にクール。Ryohuの現在地を示す楽曲群。おススメです。
14. The Internet / Hive Mind
全ての音が心地よい最高のファンク。メンバー全員若いけれども確かな技術を持っている。良質なサウンドにのるシドの美しい歌声が映える。
ただ前作が良すぎたせいか少し物足りない気もする。それでも十分すぎるほどの質だけど。
13. w.o.d. / webbing of duckling
グランジ。言ってしまえばNIRVANA的。最高でしょ。日本でこういう音を出せるバンドってなかなかないと思う。後乗りの重い音と私的な詞。爆音で聴きたい。
12. GLIM SPANKY / LOOKING FOR THE MAGIC
既発曲が多かった今作。けれどもアルバムという文脈にのるとまた聴こえ方が変わってくる。姿勢は変わらないままサイケなロックを鳴らし続ける彼らの最新の姿が全て詰まっている。
音の隙間を埋めないミドルテンポの重い音がカッコよすぎる。
11. Dorian Concept / Nature Of Limitation
おいBrainfeeder、どんだけ逸材を抱えているんだ。美しいメロディメーカー。
ライブのリハ動画がやばかった。1人多重録音で音楽が形成されていく。
10. St. Vincent / MassEducation
去年リリースしたMASSEDUCTIONをピアノVerとして2人だけで録音した作品。
MASSEDUCTIONは歪んだポップネス満載の作品だったが、それがアコースティックになることで輪郭がよりくっきりと浮かび上がる。
ギタリストとしても超一流の彼女だけど、ここまで素晴らしいギターレスのアルバムを作れてしまう。そういえばギターは武器の1つであってそこに固執することはないと何かのインタビューで言っていたような気がする。
9. 挫・人間 / OSジャンクション
僕たちの、私たちの挫・人間。心を開くということは傷つく勇気を持つことだ。
卑屈さとユーモア、そしてゼロ年代のインターネットの塊である彼らが心を開いた。
今までの挫・人間が持つ良さも詰まっているけれどより多くの人に届く一作になっているのではないかと思う。てか届け。
届かないのであれば世界はクソだ。届くのであれば世界が正しく機能している証拠となる。
8. Let's Eat Grandma / I'm All Ears
今年はフジロックにも出演したイギリスのティーン2人組ユニット。恐ろしい才能を
2人とも複数の楽器を演奏できるはず。そんでもって不穏な音、重い打ち込み、そこに合わさる綺麗で若さを感じさせる2人の声。
今作もかなり良いけど、これから先がさらに楽しみ。
7. IDLES / Joy as an Act of Resistance
パンクは死んでいない。血管が今にもはち切れんばかりの勢いでおっさんが歌ってる。響かない訳がない。エネルギーの塊。
6. Arctic Monkeys / Tranquility Base Hotel & Casino
年取りましたね。デビューが早かったからなのか余計にそう感じる。
とてもお洒落で落ち着いたアルバム。最初ギターどこ行ったのかと思ったけれど、それぞれの楽器が必要十分な仕事を全うして良い音楽を作ろうという心意気が見られる。
あとアクモンは地味にベースが良い。
5. Louis Cole / Time
はい、Brainfeederから。
エレクトロポップユニットKnowerとしても活動する才気あふれるミュージシャン。Knowerではかなりやりすぎで過剰な電子音だったけれど(そこが良いんだけど)、こちらは少し抑えめでバランスが良い。それでも過剰だけど(もちろん良い意味で)
ふざけているのか真面目なのか分からないけどやっていることはかなりガチ。ジャズドラマーとしての高度な技術とゲーム音楽に影響を受けたような電子音、それに美しいファルセット。もうヤバいとしか言いようがない。
4. Anderson .Paak / Oxnard
ドラマーとしてもシンガーとしてもラッパーとしても一流、Dr.Dreが見出した才能Anderson .Paak。
今作は割と評価が分かれているっぽい。ファンクやR&Bに密接したヒップホップ。いやヒップホップに密接したファンク?それくらいファンクサウンド。
個人的にはめちゃくちゃ好み。アルバムとしてのまとまりもありつつ一曲一曲粒ぞろい。
ただし新しい音かと言われるとそんなことはないかな。
そこが今作の評価を分けた点だと思う。
それでも素晴らしい出来だけど。
3. Kamasi Washington / Heaven and Earth
新世代ジャズの先頭を走るKamasi Washingtonの最新作。隠しディスクも含め3枚(LPだと4枚+1の5枚)で計3時間を超える大作。
ストリートファイターからインスピレーションを受けた楽曲があったり、Brainfeeder周りのLAのミュージシャンはみんな日本のアニメやゲームにかなり影響を受けているっぽい。
様々な媒体で年間上位に食い込むことであろうアルバム。壮大な音のうねり、動と静の迫力が素晴らしい。最高。
1&2. カネコアヤノ / 祝祭 / 祝祭ひとりでに
今年のベストアルバムは文句なしにカネコアヤノの祝祭。"祝祭ひとりでに"は祝祭を全曲弾き語りで再録したもの。
力強くも柔らかい声がどこまでも飛んでいく。日常にありふれた景色をしっかりと捉えて幸せを見つけ出す行為。
世界は思ったよりも美しい。そして少し頑張ってみようかなと思わされる。
とにかく素晴らしい。
祝祭と日常
カネコアヤノという歌うたいがいる。
今日はその歌うたいの声と詩に触れるため、武蔵野公会堂に行ってきた。
彼女の歌を初めて生で聴いたのは今月1日、ラジオの観覧でバンド編成だった。その次の日には私の地元群馬で行われたグッバイサマーというイベントで弾き語りを聴いた。
バンドセットも弾き語りもそれぞれに良さがあり、その両方の良さを体感できた2日間はとても素敵で忘れがたいものとなった。
しかしいずれも40分ほどのライブ。もっと、もっと彼女の歌に触れたいと思い今日の弾き語り単独演奏会に行くことを決めたのだ。
彼女の歌は日常を切り取ったものばかりだ。
それは私たちが生きる日常でもある。
何も変わらない、みな同じような景色の中で生きている。カネコアヤノもそうだろう。
しかし同じ景色の中を生きていてもカネコアヤノにしか切り取れない"何か"があって、その何かが彼女の詩にはいっぱいに詰まっている。
決して難しい言い回しじゃないが、しっかりと心の隙間を埋めてくれるような"ちょうど良い"言葉の数々。
それらの言葉がどこまでも力強く柔らかい歌声に乗って飛んでいく。
不意に涙が溢れそうになる。
というか溢れに溢れた。ライブ中何度もはらはらとこぼれ落ちた。
特に"祝日"のイントロのギターがなった瞬間から彼女が歌い終えるまでの間、あまりにも涙が出てくるものだからずっと視界がぼやけていたような気がする。
その後のアンコールではトートバッグをかけて登場してきて、その中から次々にグッズが出てきた。
嬉しそうに新しいグッズを紹介する姿からモノに拘る彼女の姿勢が感じ取れた。
喋りはどこか抜けていてとても可愛らしい。歌っている時の緊張感はどこへ行ってしまったのだろうかというほどに柔らかい雰囲気。そこもまた魅力的だ。
そしてグッズ紹介も終わり本当に最後の一曲。
"とがる"
今年になって存在を知ったばかりだが、その短い期間でも彼女は変わり続けている。変わっていく覚悟。これから進んでいく覚悟を確かに感じることができたような気がする。変わっていくことに素直でいるのは勇気がいることだろう。それがカッコいい。
そうして凄まじい多幸感の中、カネコアヤノ弾き語り単独演奏会 武蔵野公会堂公演は幕を閉じた。
彼女の歌は何気ない日常を祝祭に変えてくれる。
仕方がないことも良いことも、全てを受け入れ肯定していくのだ。
晴れている、それだけで十分に幸せだ。
同じ景色の中にいても生きかたによって世界の見え方は変わる。
不安もある。でも明るい明日を信じて今日を生きるしかない。
できないことも頑張ってやってみようと思ってる。祈りか、願いか、お守りのような言葉だ。
天井が僕から離れていく
幼い頃、たぶん小学校に上がる少し前。両親と同じ部屋で寝ていた。
両親が同じ部屋にいるのになぜか孤独を感じた。
よくわからない感覚で、その怖さを伝えるすべを持たなかった少年は「暑い」とだけ言って泣き叫んだ。
小学生になった頃だろうか。
2段ベッドで寝るようになった。下は兄、上には自分が
2段ベッドの上からは天井が近い。近かった。
なのにある日の夜、眠れずに天井を見つめているとどんどんと遠くなっていった。どこまでも遠くに。
相対的に自分が小さくなっていく気分。まるで広い宇宙に1人放り出されたような。
あの時の感覚と同じだ、そう思った。
今、私は車の後部座席に乗っている。家族で夕食を食べた帰り道。車には両親と2人の兄、そして私。
外は雨、今日は日曜日。窓におでこをつける。あの時の感覚だ。
満たされない。
でも不足はない。明日がくる。
雨と闇で何も見えない。